越後杜氏を多数輩出した
歴史ある長岡の酒造り
県内最多となる16の酒蔵が点在する長岡市。新潟清酒の歴史を築いた越後杜氏の四大出身地の内、野積杜氏と越路杜氏の2つは長岡市内ということもあり、長岡の酒造りがいかに県内でも盛んであったかがうかがえます。
「長岡は山の栃尾から海の寺泊、寺泊から越路まで、30km以上離れた広大な酒蔵の集積地。蔵ごとに特徴があるので“長岡の酒はこうだ”と一言で表現するのは難しいですが、古くからお酒の技術に対して切磋琢磨してきた歴史があります」。教えてくれたのは朝日酒造社長の細田さん。さらに、長岡にはいい水、いい米がそろっていることも付け加えます。
「酒蔵は全国にありますが、その多くが米どころ。昔は米の保存に苦慮したので、保存中に米を傷めるくらいならお酒にして売ろうと考えた人が多かったのではないだろうか」と推測。全国トップクラスの米産地である長岡で、いかにたくさんの米が採れたかという証しではないでしょうか。
個性豊かな長岡の日本酒が
海外でも浸透し始めている!
「私たちのこだわりは“新潟県産の原料にこだわること”。長らく、県産のお米だけで酒造りを行ってきました。味としては、何といっても“キレ”。味があっても、香りがあっても、喉を過ぎたらさっと引いて、後味を残さないのが特徴です」。
肉体労働からデスクワークに働き方が移行した昭和後期。大人たちの嗜好は甘みよりドライへ変わっていきました。昭和60(1985)年に誕生した久保田は、その時代背景が色濃く反映された淡麗辛口が特徴ですが、2020年にリニューアルされた「久保田 純米大吟醸」は香り×甘み×キレの融合がコンセプト。「芯は変えないけれど幅を広げていく」。時代とともに、酒造りへの取り組みも多様化してきているようです。
平成初頭からは海外輸出をスタートし、世界35カ国で流通している朝日酒造の日本酒。新型コロナウイルスの流行は大きく影響していますが、今後も海外進出への挑戦は続きます。
「長岡はいい酒の集積地であることをどんどん海外に発信していくべき。蔵元が共同でやれることは連携して、私たちも積極的に取り組みたいと考えています。本当は、日本酒の一大産地として、長岡市内をナパバレーのように回遊できる仕組みが作れたら面白いのですが…まずは、ファン作りを研究していかなければいけないと感じています」。
2019年2月には台湾のクリエーター陣と市内酒蔵がコラボして「Nagaoka Sake Discovery in 台湾」が開催。試飲会には朝日酒造を含む9蔵12銘柄が登場し、長岡の多種多様な味わいで台湾の人々を魅了しました。幅が広い長岡の日本酒は、世界各国に浸透し始めています。
酒蔵見学、セミナーも
オンラインで行う新時代へ
酒蔵の仕事は酒造りだけではありません。日本酒に少しでも興味を持ってもらおうと、朝日酒造では酒蔵見学や他社との合同蔵開きを行うほか、市内で開催される「越後長岡酒の陣」にも参加してきました。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年春からはオンライン企画にも力を入れています。
「お酒のことを理解していただくには飲むだけでなく、酒蔵にお越しいただくことが大事です。アフターコロナの世界ではリアル(イベント開催)とデジタル(オンライン開催)を織り交ぜて提案するのが当たり前になってきますから、オンライン開催の企画を増やし、イベントが通常通り行えるようになったときに向け準備を進めています」
2020年5~7月には公式YouTubeチャンネルでオンラインセミナーを開催。今まで参加できなかった遠方のお客さま、朝日酒造を深く知らなかった方にも蔵の特徴を知ってもらうきっかけになり、投稿機能を通じてうれしい反応が続々と届いていたと細田さん。
10月からは隔月でオンライン料理教室をスタートし、おつまみレシピの紹介や、おつまみと相性のいい「久保田」の紹介も行っています。酒造り、ファンづくりにも妥協しない長岡の人々のひたむきさに、きっとあなたも心打たれるはずです。
お話を聞いた方
朝日酒造株式会社 取締役社長 細田 康さん