水陸を渡ったしょうゆ文化と
家庭に浸透した越後みそ
みそ、しょうゆの芳しい香りが心地いい、醸造の街・長岡市摂田屋。江戸時代、信濃川の水運や佐渡金山と江戸を結ぶ三国街道を利用し、しょうゆの文化が根付いたとされています。およそ170年前、創業当時はしょうゆ屋だったという越後みそ・しょうゆの老舗、星野本店。7代目の星野孝さんから摂田屋のみそとしょうゆの歴史についてお話をうかがいました。
「幕末の時代、創業者は出稼ぎで江戸・上野周辺の食品問屋で働いていました。そこでしょうゆと巡り合ったようです。しょうゆの発祥は和歌山県だったので、当時はかなり高額だったのでしょう。何とか庶民でも使いやすいものにできないかと、働きながら情報を集め、しょうゆ作りを始めたと聞いています」
稲作が盛んな新潟県では県内各地に麹屋があり、米麹が身近にありました。「米麹をうまく活用できないだろうか」という発想から、しょうゆ作りの工程を生かしてみそ作りが始まります。
「製造の難しいしょうゆと違い、みそは、古くから各家庭で作られてきた調味料です。各家庭で工夫して作られていたことから、”手前みそ”という言葉が生まれたのだと思います。自分の作ったみそが一番おいしいですからね」
各蔵の味を試して
自分好みの一品を見つけよう
越後みそは、赤みが冴え、香りがすっきりしているのが特徴です。大豆と米麹の割合が蔵元によって異なるため、越後みそといっても蔵ごとに味わいはさまざま。大豆の割合が多いと、色が濃く、しっかりとした味わいに。米麹の割合が多くなると、甘みが増し、大豆のしっかりした味わいがありながら、米麹の柔らかさを感じられます。
対照的に、原料の規格がしっかりと定められているしょうゆ。使用する材料や分量が決められている中、長岡では新潟県醤油協業組合によって県内産の大豆、小麦を使った県産醤油復刻プロジェクトを立ち上げています。濃口、淡口、再仕込み、だし入りしょうゆなど、製造する蔵ごとに幅広い商品ラインアップがあるので、どんな違いがあるのか、ぜひ比べてみてください。
星野本店のほか、摂田屋には越のむらさき(しょうゆ)、味噌星六(みそ)の2蔵が徒歩圏内で営業しています。各蔵の味わいを試しながら、自分の好みに合ったみそ・しょうゆを探してみましょう。
進化を続ける醸造の街に
新たな名所が誕生
2004年の中越地震以降、観光地へと変貌を遂げた摂田屋。星野本店も蔵が3棟倒壊する多大な被害を受けましたが、市と街が一体となり活性化に力を入れてきたといいます。
「中越地震により、摂田屋のシンボルである機那サフラン酒本舗を守ろうと人々が動き出しました。歴史ある鏝絵(こてえ)蔵に、400年以上の歴史を持つ酒蔵、そしてみそ・しょうゆ蔵。当たり前すぎて気が付けなかった街の魅力に、このとき気が付けたと思います。JR東日本の提案で摂田屋の街めぐりが企画されると、多くの観光客が街を訪れるようになりました。15年前には考えられないことです。」
それまでは小売店とのやり取りが主な販売方法だった星野本店でも、観光客向けに店頭販売を展開。2019年秋には国の登録有形文化財に指定されている三階蔵をギャラリーとしてオープンし、地元クリエイターの作品展示やイベントが行われるようになりました。
そして、2020年春。機那サフラン酒本舗を舞台に「ミライ発酵本舗」が活動を開始。「まざる、つながる、うまれる。」を合言葉に、摂田屋の発酵文化はさらに多くの人々を笑顔にしてくれるはずです。
お話を聞いた方
株式会社星野本店 代表取締役 星野 孝さん